中島京子『やさしい猫』

 

今年の4月まで読売新聞で連載していた

中島京子の『やさしい猫』

 

今月 中央公論新社から出版されました

単行本化までもっと時間がかかると思っていたので

嬉しい驚きです

 

根底に流れる優しさと絶妙なユーモアで

中島作品はいつも楽しみなのですが

この物語は特に印象に残りました

 

  

シングルマザーの保育士ミユキさんが心ひかれたのは、八歳年下の自動車整備士クマさん。出会って、好きになって、この人とずっと一緒にいたいと願う。当たり前の幸せが奪われたのは、彼がスリランカ出身の外国人だったから。大きな事件に見舞われた小さな家族を暖かく見守るように描く長編小説。

 

上記のあらすじだと

「ミユキさん愛に生きる!」みたいな印象ですが

物語は終始ミユキさんの娘 マヤちゃんの視点で語られます

 

3歳の時に病気で父親を亡くし 母親と二人で暮らすマヤちゃん

そうした生活の中に ある日スリランカ人のクマさんが現れ

溶け込み いつしか家族のような存在になっていく

そこで起きた大きな事件・・・

思春期のほのかな初恋や受験など

マヤちゃんの成長物語の意味合いも強いです

 

『やさしい猫』はフィクションですが

弁護士や当事者への取材に基づいて描かれていて

 

物語の途中 クマさんがオーバーステイで入管に収容され

体調不良を訴えても取り合ってもらえないという場面が出てきますが

現実でも名古屋市の入管でスリランカ人女性のウィシュマさんが亡くなるという

痛ましい事件が起きました

 

これまで表沙汰にならなかった入管収容の現状が浮き彫りになり

世間の注目を集めています

不法滞在が非人道的な扱いを受けることの理由にはならないし

命が軽んじられることはあってはならない

 

題名の『やさしい猫』はスリランカの民話で

クマさんがマヤちゃんに話して聞かせたお話のひとつ

これも物語中 大きな伏線となっています

またマヤちゃんが ”ある人” に対して語りかける形式で

物語が進行していくのですが

それが誰かという種明かしに幸せがこもっています

 

重いテーマですが 作家の力量で

面白くぐんぐん読めます

裁判のシーンは手に汗握る展開

読後はあたたかい気持ちになるので

多くの人に読んで貰いたい作品です